日本版ESOPに関する会計処理 - vol.1 -
従業員等に対して信託を通じて自社株式を交付する取引について、
企業会計基準委員会より当面の取り扱いに関する指針として、
実務対応報告第30号「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」が公表されています。
本稿では、当該実務対応報告に関して説明します。
取り扱う取引は、以下の2種類です。
①従業員持株会型:従業員への福利厚生を目的として、従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引
②株式給付型:従業員への福利厚生を目的として、自社の株式を受け取ることができる権利(受給権)を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引
それぞれに区分して解説します。
①従業員持株会型
次のいずれの要件も満たす場合は、会社は期末において総額法*1を適用する。
ただし、信託にかかる損益が最終的に従業員に帰属する点を考慮して、本実務対応報告では別段の定めを規定しています。
実務対応報告第30号「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」第5項
(1) 委託者が信託の変更をする権限を有している場合
(2) 企業に信託財産の経済的効果が帰属しないことが明らかであるとは認められない場合
*1 実務対応報告第30号「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」注6
一般的に、総額法は、信託の資産及び負債を企業の資産及び負債として貸借対照表に計上し、信託の損益を企業の損益として損益計算書に計上することを意味する。
設例により確認しましょう!
例)前提条件は次のとおりとする。
・A社:委託者、要件を充足する従業員:受益者、信託銀行:受託者
・金銭信託の設定:100
・信託による新規借入:500
・保証料の年間支払額:10
・信託への自己株式処分:150株 / 帳簿価額150、処分価額180
・信託から従業員持株会への株式の譲渡:50株 / 処分価額100
・支払利息:5
・諸費用の金額:5
会計処理についてひとつひとつみていきます。
■金銭信託の設定
(仕訳)
信託口 100 / 現預金 100
■信託による新規借入
(仕訳)
なし
■保証料の受け取り
(仕訳)
現預金 10 / 受取保証料 10
■信託への自己株式処分
(仕訳)
現預金 180 / 自己株式 150
その他資本剰余金 30
■信託から従業員持株会への株式の譲渡
(仕訳)
なし
■決算時処理
信託の財産をA社の個別財務諸表に計上する。
(仕訳)
現預金 500 / 借入金 500
A社株式 120*2 信託元本 100
支払保証料 10 A社株式売却益 40*2
支払利息 5
諸費用 5
*2 信託銀行の立場からみると、A社株式 / 取得価額:180(100株)、売却された50株の取得価額60*3であるので、売却益は40(=100 - 60)、残高は120*4となる。
*3 180 × 50/150 = 60
*4 180 × 100/150 = 120
信託口と信託元本を相殺します。
(仕訳)
信託元本 100 / 信託口 100
信託の損益は従業員に帰属するので、信託口に振り替えます。
(仕訳)
A社株式売却益 40 / 支払保証料 10
支払利息 5
諸費用 5
信託口 20
信託におけるA社株式は自己株式に振り替えます。
(仕訳)
自己株式 120 / A社株式 120
(vol.2へ続く)