書籍『ファイナンス思考 日本企業を蝕む病と、再生の戦略論』著:朝倉 祐介
ファイナンスとは何かについて基本を学ぶのにオススメです。
著者は短期的な利益を上げるために、事業に必要な投資を抑制したり、経営の意思決定が左右されてしまう思考態度を「PL脳」と呼んで、その態度を改めるべきであると論じています。
ファイナンスを一言で整理すれば、「企業価値の最大化のために、将来キャッシュ・フローを最大化すること」と言い換えられるでしょう。一方、会計を簡単に言ってしまえば、「過去の業績と現在の状態を数値で表現すること」となるでしょう。
会計とファイナンスは関係するものですが、対照的な関係でもあります。
会計:過去・現在 ⇔ ファイナス:未来
会社の目的を企業価値の最大化とするならば、ファイナンスの見方で将来に目を向ける必要がありますが、近視眼的な態度では、直近のP/Lを改善するのに汲々として、とても将来の展望を描くことができず、それが原因で衰退へ向かってしまう・・・
会計は本来は事業を正しい方向へ進めるための”羅針盤”の役割を持ったものですが、本来の役割を離れて、会計ありきで意思決定をしてしまう、本末転倒な場合もある。
本著では一例として、のれんの処理を挙げています。
のれん:M&Aにおいて対象会社の純資産額と買収金額との差額
日本基準ではのれんは毎年、均等に償却(費用化)する必要があります。
例えば、売上高が50億円、営業利益が5億円のA社が純資産が100億円のB社を150億円で買収したとします。その際、のれんは50億円(150億円−100億円)となります。のれんを費用化する期間を10年とすると、のれんの費用化だけで、営業利益が0(営業利益5億円−毎年ののれんの費用化5億円)となってしまいます。
B社を買収することが、本当にA社の事業のために必要ならば、短期的な視点で利益を重視するのではなく、長期的な目線で企業価値の最大化を図るべきですが、著者がいうところの「PL脳」ではそれができない。短期的なPLばかりを追いかけてしまう。
経営と会計の主従関係が逆転しているようです。本来は経営のために会計があるはずなのに、会計ありきの経営となってしまう。そのことを著者は嘆いています。
将来的な企業価値の最大化に目を向けること、その視点(ファイナンス思考)を養うための良書です。