逆取得の会計処理

企業結合の対価として株式を交付する場合、通常、株式を交付する企業が取得企業となりますが、そうでない場合もあります。この場合を逆取得といいます。ここでは、逆取得についての会計処理についてまとめておきます。

 

会計基準を読んでいるだけではわかりづらいと思いますので、設例を通して確認しましょう。

 

(前提)

・企業結合の形式:吸収合併

・吸収合併存続企業:X社

・吸収合併消滅企業:Y[社

・企業結合の対価:自社株式(新株発行)

・取得企業:吸収合併消滅会社

・発行済株式数:X社:200株、Y社:300株

・合併比率:X社:Y社 = 1:2

・Y社株価:@50

 

(会計処理)

・個別上の処理

吸収合併存続会社

吸収合併消滅会社の資産・負債を合併直前の帳簿価額で計上します。

企業会計基準第 21 号「企業結合に関する会計基準」第34項

34. 消滅会社が取得企業となる場合、存続会社の個別財務諸表では、当該取得企業(消滅会社)の資産及び負債を合併直前の適正な帳簿価額により計上する。 

 

合併日のY社のB/Sが、次の通りであったとします。

Y社のB/S:諸資産1,000、諸負債200、株主資本750、その他有価証券評価差額金50

 

X社の個別上の処理は次のとおりです。

(仕訳)

諸資産 1,000 /  諸負債                               200

         資本剰余金                        750

         その他有価証券評価差額金 50

 

企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」第84項

(1) 新株を発行した場合の会計処理(第 408 項参照)
① 株主資本項目の取扱い 

ア 原則的な会計処理
吸収合併消滅会社(取得企業)の合併期日の前日の適正な帳簿価額による株主資本の額を払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理する。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。なお、抱合せ株式等がある場合には、第 84-2 項による。
また、吸収合併消滅会社の合併期日の前日の適正な帳簿価額による株主資本の額がマイナスとなる場合及び抱合せ株式等の会計処理(第 84-2 項参照)により株主資本の額がマイナスとなる場合には、払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理する。

・・・

② 株主資本以外の項目の取扱い
吸収合併存続会社(被取得企業)は、吸収合併消滅会社(取得企業)の合併期日の前日の評価・換算差額等及び新株予約権の適正な帳簿価額を引き継ぐ。したがって、例えば、吸収合併消滅会社のその他有価証券評価差額金や土地再評価差額金の適正な帳簿価額もそのまま引き継ぐことになる。

 

・連結上の処理

企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」第85項

85. 第 84 項の逆取得となる吸収合併が行われた後に、結合後企業が連結財務諸表を作成する場合には、吸収合併存続会社を被取得企業としてパーチェス法を適用する。具体的には、吸収合併消滅会社(取得企業)の合併期日の前日における連結財務諸表上の金額(吸収合併消滅会社が連結財務諸表を作成していない場合には個別財務諸表上の金額をいう。)に、次の手順により算定された額を加算する。

(1) 取得原価の算定

・・・

(2) 取得原価の配分
・・・

(3) 増加すべき株主資本の会計処理 

・・・

 

(1)取得価額の算定

企業会計基準第 21 号「企業結合に関する会計基準」 

(注1)被取得企業の株式が交付された場合、取得の対価となる財の時価は、被取得企業の株主が結合後企業に対する実際の議決権比率と同じ比率を保有するのに必要な数の取得企業株式を、取得企業が交付したものとみなして算定する。株式移転により共同持株会社の株式が交付された場合も同様とする。 

 

合併直前のX社株主の議決権比率

= 200 ÷ (200 + 300 × 2)

= 25%

 

X社株主が合併直前と同じ議決権比率を保有するのに、Y社が交付したとみなす株式数について算定します。この株式数をxと仮定します。

 

(計算式)

x ÷ (x + 300) = 0.25

⇔x = 0.25 × (x + 300)

⇔x = 0.25x + 75

⇔0.75x = 75

⇔x = 100株

 

よって、取得価額は以下のように算定されます。

取得価額 = 100株 × @50 = 5,000

 

(2) 取得原価の配分

合併日のX社のB/Sは次のとおりであったとします。

X社のB/S:資産5,000(時価5,500)、負債1,000、資本金500、資本剰余金3,500

 

のれんの金額

= 5,000 − (5,500 − 1,000)

= 500

 

(仕訳)

諸資産 5,500 /    諸負債  1,000

のれん    500   払込資本 5,000

 

(3) 増加すべき株主資本の会計処理 

取得価額5,000をY社の払込資本に追加します。ですが、連結F/S上の資本金は吸収合併存続会社であるX社の資本金とします。

 

企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」第85項(3)

・・・ただし、連結財務諸表上の資本金は吸収合併存続会社(被取得企業)の資本金とし、これと合併直前の連結財務諸表上の資本金(吸収合併消滅会社の資本金)が異なる場合には、その差額を資本剰余金に振り替える。 

 

X社の連結上の資本金は500、Y社資本金との差額250(=750 − 500)は資本剰余金に振り替えます。

 

(参考)

企業会計基準第 21 号「企業結合に関する会計基準」 

企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」