エンジェル税制 - vol.1 -

エンジェル税制はベンチャー企業への投資促進の観点から所得税法上、個人投資家が受けられる税制上の優遇措置を指します。

 

投資対象となる会社は特定中小会社と特定新規中小会社(以下、特定中小会社等)に該当する会社です。

 

税制上の優遇措置としては、次のようなものがあります。

(1)特定中小会社への投資

特定中小会社が発行する株式に投資した場合、取得に要した価額を一般株式等または上場株式等にかかる譲渡所得の金額の計算上、控除することが出来ます。

 

(計算式)

控除ができる金額 = A ÷ B × (C - D)

A:特定株式の取得に要した金額の合計額

B:取得した特定株式の数

C:取得した年中に払込みにより取得をした特定株式の数

D:取得した年中に譲渡または贈与したその特定株式と同一銘柄株式の数

 

この適用を受けた年以降の特定株式の取得価額は次のとおりです。

(計算式)

適用年以後の1株あたり取得価額

= A - (B × C)

A:適用年の12月31日時点の1株あたり取得価額

B:控除対象額

C:適用年の12月31日時点の株式数

 

(2)特定新規中小会社への投資

特定新規中小会社が発行した株式に投資した金額のうち、800万円(令和2年分以前は1,000万円)を限度として、寄附金控除の適用を受けることが出来ます。

 

(参考)

No.1544 エンジェル税制の概要等|国税庁

No.1530 特定投資株式の取得に要した金額の控除等の特例(エンジェル税制)|国税庁

中小企業庁:エンジェル税制の仕組み(令和2年4月1日以降の出資について)

組織再編税制 vol.7 - 繰越欠損金 Part.1 -

次に適格合併が行われた場合の繰越欠損金の取り扱いについて整理します。

法人税法上、次のように規定されます。

法人税法 第57条

2 前項の内国法人を合併法人とする適格合併が行われた場合・・・当該適格合併に係る被合併法人・・・(以下この項において「被合併法人等」という。)の当該適格合併の日前十年以内に開始し、・・・各事業年度・・・において生じた欠損金額・・・があるときは、当該内国法人の当該適格合併の日の属する事業年度・・・以後の各事業年度における前項の規定の適用については、当該前十年内事業年度において生じた未処理欠損金額・・・は、それぞれ当該未処理欠損金額の生じた前十年内事業年度開始の日の属する当該内国法人の各事業年度・・・において生じた欠損金額とみなす。

適格合併の場合、原則として被合併法人の繰越欠損金の金額については合併法人に引き継がれます。

ただし、一部の要件を満たさない適格合併については繰越欠損金の引き継ぎについて制限を受けます。

法人税法 第57条 3

前項の適格合併に係る被合併法人・・・の前項に規定する未処理欠損金額には、当該適格合併が共同で事業を行うための合併として政令で定めるものに該当する場合又は当該被合併法人等と同項の内国法人との間に当該内国法人の当該適格合併の日の属する事業年度開始の日・・・の五年前の日・・・、当該被合併法人等の設立の日若しくは当該内国法人の設立の日のうち最も遅い日から継続して支配関係がある場合として政令で定める場合のいずれにも該当しない場合には、次に掲げる欠損金額を含まないものとする。・・・

 

要約すると、支配関係のある被合併法人との適格合併のうち次の要件のどちらも満たさない場合、繰越欠損金の引き継ぎに制限を受けることになります。

・適格合併の日の属する事業年度開始の5年前の日または被合併法人・合併法人の設立の日の最も遅い日から継続して支配関係があること

・適格合併が共同で事業を行うための合併として政令で定めるものに該当する場合

 

上記のうち、「共同で事業を行うための合併として政令で定めるものに該当する場合」(以下、みなし共同事業要件)は次の通り規定されます。

 

(1)事業の関連性があること

(2)事業の規模の割合が一定割合以下であること

(3)一定の事業規模が継続していること

(4)特定役員の引き継ぎ要件

 

これらの要件の内、(1)〜(3)、若しくは(1)と(4)を満たすことが求められます。

組織再編税制 vol.6 - 合併 Part.6 -

ここで各パターンの税制適格要件を整理します。

 

1.完全支配関係がある場合

(要件)

(1)金銭その他の資産の不交付

(2)完全支配関係の継続

 

2.支配関係がある場合

(要件)

(1)金銭その他の資産の不交付

(2)従業者が引き続き業務に従事

(3)事業が継続して行われること

(4)支配関係の継続

 

3.共同で事業を行う場合

(要件)

(1)金銭その他の資産の不交付

(2)従業者が引き続き業務に従事

(3)事業が継続して行われること

(4)合併事業と被合併事業が関連していること

(5)事業の規模が一定規模を超えないこと or 特定の役員が事業に従事

(6)株式を継続して保有すること

 

※ 執筆に当たっては当該時点の法令等を参照して充分に注意しておりますが、本稿で記載されたことを利用して発生した損害等については執筆者は責任を負いません。実務に当たっては専門家の方々にご相談されることを強く推奨致します。

(当ブログ全般に当たって上記事項は適用するものとします。)

組織再編税制 vol.5 - 合併 Part.5 -

「3.共同で事業を行う場合」の税制適格要件の続きです。

(5)事業の規模が一定規模を超えないこと or 特定の役員が事業に従事

(5)- 1.事業規模要件

法人税法施工令 第4条の3

・・・

二 合併に係る被合併法人の被合併事業と当該合併に係る合併法人の合併事業(当該被合併事業と関連する事業に限る。)のそれぞれの売上金額、当該被合併事業と合併事業のそれぞれの従業者の数、当該被合併法人と合併法人(当該合併が新設合併である場合にあつては、当該被合併法人と他の被合併法人)のそれぞれの資本金の額若しくは出資金の額若しくはこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね五倍を超えないこと・・・

合併事業と被合併事業の売上金額、従業者の数、資本金又は出資金またはこれらに準ずるものの規模の割合が概ね5倍を超えないことが求められます。

「これらに準じるものの規模」としては次のように規定されます。

法人税基本通達 1-4-6

・・・「これらに準ずるものの規模」とは、例えば、金融機関における預金量等、客観的・外形的にその事業の規模を表すものと認められる指標をいう。・・・

(注) 事業の規模の割合がおおむね5倍を超えないかどうかは、これらの号に規定するいずれか一の指標が要件を満たすかどうかにより判定する。

 

(5)- 2.特定役員要件

法人税法施工令 第4条の3

・・・当該合併前の当該被合併法人の特定役員(社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者で法人の経営に従事している者をいう。以下この条において同じ。)のいずれかと当該合併法人(当該合併が新設合併である場合にあつては、他の被合併法人)の特定役員のいずれかとが当該合併後に当該合併に係る合併法人の特定役員となることが見込まれていること。

 

合併法人と被合併法人の特定役員のいずれかが合併法人の特定役員になることが見込まれることが必要です。

 

上記の「これらに準じる者」については、次のように規定されます。

法人税基本通達 1-4-7

・・・「これらに準ずる者」とは、役員又は役員以外の者で、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役又は常務取締役と同等に法人の経営の中枢に参画している者をいう。

 

税制適格要件としては、(5)−1.事業規模要件または(5)−2.特定役員要件のいずれかを満たすことが必要です。

 

(6)株式を継続して保有すること

交付された合併法人の株式または合併親法人の株式を、支配株主が継続して保有することが求められます。

 

組織再編税制 vol.4 - 合併 Part.4 -

3.共同で事業を行う場合

(1)金銭その他の資産の不交付

こちらは1.(1)、2.(1)と同様です。

 

(2)従業者が引き続き業務に従事

こちらも2.(2)と同様です。

 

(3)事業が継続して行われること

こちらも2.(3)と同様です。

 

(4)合併事業と被合併事業が関連していること

法人税法施工令 第4条の3 4

一 合併に係る被合併法人の被合併事業(当該被合併法人の当該合併前に行う主要な事業のうちのいずれかの事業をいう。以下この項において同じ。)と当該合併に係る合併法人の合併事業(当該合併法人の当該合併前に行う事業のうちのいずれかの事業をいい、当該合併が新設合併である場合にあつては、他の被合併法人の被合併事業をいう。次号及び第四号において同じ。)とが相互に関連するものであること。

 

合併事業と被合併事業が相互に関連していることが求められます。

ここで合併事業と被合併事業が相互に関連している場合とはどのような場合を指しているのでしょうか?

こちらに関しても規定されています。

法人税法施行規則 第3条

・・・

二 当該被合併事業と合併事業との間に当該合併の直前において次に掲げるいずれかの関係があること。
イ 当該被合併事業と合併事業とが同種のものである場合における当該被合併事業と合併事業との間の関係
ロ 当該被合併事業に係る商品、資産若しくは役務(それぞれ販売され、貸し付けられ、又は提供されるものに限る。以下この号及び次項において同じ。)又は経営資源(事業の用に供される設備、事業に関する知的財産権等、生産技術又は従業者の有する技能若しくは知識、事業に係る商品の生産若しくは販売の方式又は役務の提供の方式その他これらに準ずるものをいう。以下この号及び次項において同じ。)と当該合併事業に係る商品、資産若しくは役務又は経営資源とが同一のもの又は類似するものである場合における当該被合併事業と合併事業との間の関係
ハ 当該被合併事業と合併事業とが当該合併後に当該被合併事業に係る商品、資産若しくは役務又は経営資源と当該合併事業に係る商品、資産若しくは役務又は経営資源とを活用して行われることが見込まれている場合における当該被合併事業と合併事業との間の関係
2 合併に係る被合併法人の被合併事業と当該合併に係る合併法人の合併事業とが、当該合併後に当該被合併事業に係る商品、資産若しくは役務又は経営資源と当該合併事業に係る商品、資産若しくは役務又は経営資源とを活用して一体として行われている場合には、当該被合併事業と合併事業とは、前項第二号に掲げる要件に該当するものと推定する。

上記を整理すると次のとおりです。

・合併事業と被合併事業が同種の関係にある(上記二イ)

・合併事業と被合併事業の商品、資産若しくは役務又は経営資源とが同一のもの又は類似している(上記二ロ)

・合併事業・被合併事業に係る商品、資産若しくは役務又は経営資源を活用することが見込まれること(上記二ハ)

・合併事業・被合併事業が合併後に合併事業・被合併事業の商品、資産若しくは役務又は経営資源を活用して一体として行われる場合(上記2)

 

国税庁から公表されている質疑応答事例に事業の関連性について述べられたものがありますので、こちらもご参照ください。

事業関連性要件における相互に関連するものについて|国税庁

組織再編税制 vol.3 - 合併 Part.3 -

税制適格要件についての続きです。

 

2.支配関係がある場合

(1)金銭その他の資産の不交付

こちらは1.(1)と同様です。

 

(2)従業者が引き続き業務に従事

法人税法 第2条 12の8 ロ

・・・

(1) 当該合併に係る被合併法人の当該合併の直前の従業者のうち、その総数のおおむね百分の八十以上に相当する数の者が当該合併後に当該合併に係る合併法人の業務(当該合併に係る合併法人との間に完全支配関係がある法人の業務並びに当該合併後に行われる適格合併により当該被合併法人の当該合併前に行う主要な事業が当該適格合併に係る合併法人に移転することが見込まれている場合における当該適格合併に係る合併法人及び当該適格合併に係る合併法人との間に完全支配関係がある法人の業務を含む。)に従事することが見込まれていること。

被合併法人の従業者の80%以上の者が合併法人の業務に引き続き従事することが求められます。

なお、上記の「従業者」の範囲については別途、規定されます。

法人税基本通達 1-4-4 

法第2条第12号の8ロ(1)・・・に規定する「従業者」とは、役員、使用人その他の者で、合併、・・・直前において被合併法人の合併前に行う事業、に現に従事する者をいうものとする。・・・

 

出向により受け入れている者も合併直前に事業に従事している場合、従業者に含まれます。

法人税基本通達 1-4-4 (注)

1 出向により受け入れている者等であっても、被合併法人の合併前に行う事業、分割事業、現物出資事業、完全子法人の事業、株式交換等完全子法人の事業又はそれぞれの株式移転完全子法人の事業に現に従事する者であれば従業者に含まれることに留意する。

 

一方、下請先の従業員は従業者に含まれません。

法人税基本通達 1-4-4 (注)

2 下請先の従業員は、例えば自己の工場内でその業務の特定部分を継続的に請け負っている企業の従業員であっても、従業者には該当しない。

 

(3)事業が継続して行われること

法人税法 第2条 12の8 ロ

・・・

(2) 当該合併に係る被合併法人の当該合併前に行う主要な事業が当該合併後に当該合併に係る合併法人(当該合併に係る合併法人との間に完全支配関係がある法人並びに当該合併後に行われる適格合併により当該主要な事業が当該適格合併に係る合併法人に移転することが見込まれている場合における当該適格合併に係る合併法人及び当該適格合併に係る合併法人との間に完全支配関係がある法人を含む。)において引き続き行われることが見込まれていること。

合併前における被合併法人の主要事業が合併後に合併法人において引き続き行われることが見込まれることが必要です。

 

(4)支配関係が継続していること

合併前後において支配関係が継続していることが求められます。

組織再編税制 vol.2 - 合併 Part.2 -

次に税制適格要件について整理します。

各パターンに分けて説明します。

 

1.完全支配関係がある場合

(1)金銭その他の資産の不交付

原則として、合併の対価として金銭その他の資産を交付してはいけません。

ただし、次の場合は除きます。

法人税法 第2条 12の8

・・・当該株主等に対する剰余金の配当等(株式又は出資に係る剰余金の配当、利益の配当又は剰余金の分配をいう。)として交付される金銭その他の資産、合併に反対する当該株主等に対するその買取請求に基づく対価として交付される金銭その他の資産及び合併の直前において合併法人が被合併法人の発行済株式等の総数又は総額の三分の二以上に相当する数又は金額の株式又は出資を有する場合における当該合併法人以外の株主等に交付される金銭その他の資産を除く。・・・

・剰余金の配当等として交付される場合

・反対株主からの買取請求により交付される場合

・合併法人が被合併法人の発行済株式総数の3分の2以上を保有している場合

 

(2)完全支配関係の継続

法人税法施工例 第4条の3 

法第二条第十二号の八(定義)に規定する全部を直接又は間接に保有する関係として政令で定める関係は、合併の直前に当該合併に係る合併法人と当該合併法人以外の法人との間に当該法人による完全支配関係(以下この項において「直前完全支配関係」という。)があり、かつ、当該合併後に当該合併法人と当該法人(以下この項において「親法人」という。)との間に当該親法人による完全支配関係が継続すること(当該合併後に当該合併に係る合併法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には、当該合併の時から当該適格合併の直前の時まで当該完全支配関係が継続すること。)が見込まれている場合における当該直前完全支配関係とする。

 

合併の前後において、完全支配関係が継続していることが必要です。