かいけいがく vol.36 - 退職給付 Part.4 -
(vol.35から続く)
・確定拠出制度
4. 「確定拠出制度」とは、一定の掛金を外部に積み立て、事業主である企業が、当該掛金以外に退職給付に係る追加的な拠出義務を負わない退職給付制度をいう。
31. 確定拠出制度については、当該制度に基づく要拠出額をもって費用処理する。
また、当該制度に基づく要拠出額をもって費用処理するため、未拠出の額は未払金として計上する。
32. 前項の費用は、第 28 項の退職給付費用に含めて計上する。
確定拠出制度は”確定拠出”とあるとおり、企業の負担する金額が決まっている退職給付制度です。企業は掛金以外に負担を負わず、支払ったときに費用処理します。
例)A社は確定拠出制度の掛金として、当期に10,000を支払った。
(仕訳)
退職給付費用 10,000 / 未払金 10,000
・小規模企業等における簡便な方法
26. 従業員数が比較的少ない小規模な企業等において、高い信頼性をもって数理計算上の見積りを行うことが困難である場合又は退職給付に係る財務諸表項目に重要性が乏しい場合には、期末の退職給付の要支給額を用いた見積計算を行う等の簡便な方法を用いて、退職給付に係る負債及び退職給付費用を計算することができる。
小規模企業等における簡便法
(小規模企業等における簡便法の適用範囲)
47. 会計基準第 26 項に基づき、従業員数が比較的少ない小規模な企業等において、簡便な方法を用いて退職給付に係る負債及び退職給付費用を計上する場合、第 48 項から第51 項に従った会計処理(以下「簡便法」という。)を行う。簡便法を適用できる小規模企業等とは、原則として従業員数 300 人未満の企業をいうが、従業員数が 300 人以上の企業であっても年齢や勤務期間に偏りがあるなどにより、原則法による計算の結果に一定の高い水準の信頼性が得られないと判断される場合には、簡便法によることができる。
なお、この場合の従業員数とは退職給付債務の計算対象となる従業員数を意味し、複数の退職給付制度を有する事業主にあっては制度ごとに判断する。
従業員数は毎期変動することが一般的であるので、簡便法の適用は一定期間の従業員規模の予測を踏まえて決定する。
(簡便法による退職給付に係る負債の計算)
48. 小規模企業等において簡便法を適用する場合、次の金額を退職給付に係る負債(又は退職給付に係る資産)とする。(1) 非積立型の退職給付制度については、第 50 項及び第 51 項の方法により計算された退職給付債務の額
(2) 積立型の退職給付制度(退職一時金制度に退職給付信託を設定したものを含む。
以下同じ。)については、(1)の金額から年金資産の額を控除した金額期末日における年金資産の額については、時価を入手する代わりに、直近の年金財政決算における時価を基礎として合理的に算定された金額(例えば、直近の時価に期末日までの拠出額及び退職給付の支払額を加減し、当該期間の見積運用収益を加算した金額)を用いることができる。
(簡便法による退職給付費用の計算)
49. 小規模企業等において簡便法を適用する場合、次の差額を当年度の退職給付費用とする。(1) 非積立型の退職給付制度については、期首の退職給付に係る負債残高から当期退職給付の支払額を控除した後の残高と、期末の退職給付に係る負債(第 48 項(1)参
照)との差額(2) 積立型の退職給付制度については、期首の退職給付に係る負債残高から当期拠出額を控除した後の残高(事業主が退職給付額を直接支払う場合、当該給付の支払額も控除する。)と、期末の退職給付に係る負債(第 48 項(2)参照)との差額
(簡便法による退職給付債務の計算)
50. 小規模企業等において簡便法を適用する場合、次の方法のうち、各事業主の実態から合理的と判断される方法を選択して退職給付債務を計算する。
いったん選択した方法は、原則として継続して適用する。
(1) 退職一時金制度
① 会計基準(又は平成 10 年 6 月に企業会計審議会から公表された「退職給付
に係る会計基準」(以下「平成 10 年会計基準」という。))の適用初年度の期首
における退職給付債務の額を原則法に基づき計算し、当該退職給付債務の額と
自己都合要支給額との比(比較指数)を求め、期末時点の自己都合要支給額に
比較指数を乗じた金額を退職給付債務とする方法(翌年度以後においては計算
基礎等に重要な変動がある場合は、比較指数を再計算する。)なお、原則法により計算された親会社の比較指数を用いることに合理性があ
ると判断される場合には、親会社の比較指数を自社の期末自己都合要支給額に乗じた金額を退職給付債務とする方法も適用することができる。② 退職給付に係る期末自己都合要支給額に、【資料 1】及び【資料 2】に示され
ている平均残存勤務期間に対応する割引率及び昇給率の各係数を乗じた額を
退職給付債務とする方法([設例 9]1.)③ 退職給付に係る期末自己都合要支給額を退職給付債務とする方法
(2) 企業年金制度
① 会計基準(又は平成 10 年会計基準)の適用初年度の期首における退職給付
債務の額を原則法に基づき計算し、当該退職給付債務の額と年金財政計算上の
数理債務との比(比較指数)を求め、直近の年金財政計算における数理債務の
額に比較指数を乗じた金額を退職給付債務とする方法(翌年度以後においては
計算基礎等に重要な変動がある場合は、比較指数を再計算する。)なお、原則法により計算された親会社の比較指数を用いることに合理性があ
ると判断される場合には、親会社の比較指数を自社の直近の年金財政計算にお
ける数理債務の額に乗じた金額を退職給付債務とする方法も適用することが
できる。② 在籍する従業員については上記(1)②又は(1)③の方法により計算した金額
を退職給付債務とし、年金受給者及び待期者については直近の年金財政計算上の数理債務の額を退職給付債務とする方法③ 直近の年金財政計算上の数理債務をもって退職給付債務とする方法([設例
9]2.)51. 退職一時金制度の一部を企業年金制度に移行している事業主においては、次のいずれかの方法で退職給付債務を計算する。
(1) 退職一時金制度の未移行部分に係る退職給付債務と企業年金制度に移行した部分に係る退職給付債務を、前項の方法によりそれぞれ計算する方法
(2) 在籍する従業員については企業年金制度に移行した部分も含めた退職給付制度全体としての自己都合要支給額を基に計算した額を退職給付債務とし、年金受給者及び待期者については年金財政計算上の数理債務の額をもって退職給付債務とする方法([設例 9]3.)
長くなりましたが、数値例で確認しましょう。
例) 退職一時金制度を採用している会社の退職給付計算を以下のデータに基づき行う。
(第 50 項(1)②を採用する)
自己都合要支給額(期首):300,000
自己都合要支給額(期末):600,000
当期退職金支払額:50,000
平均残存勤務期間:15年
(当該平均残存勤務期間の各係数)
昇給率係数:1.67535
割引率係数:0.51672
(計算式)
退職給付債務(期首):300,000 × 1.67535 × 0.51672 = 259,706
退職給付債務(期末):600,000 × 1.67535 × 0.51672 = 519,412
当期の退職給付費用:519,412 - (259,706 - 50,000) = 309,706
例)企業年金制度を採用している会社の退職給付計算を以下のデータに基づき行う。
(第 50 項(2)③を採用する)
直近一年前の年金財政計算上の数理債務:60,000
直近の年金財政計算上の数理債務:80,000
年金資産の時価(期首):20,000
年金資産の時価(期末):25,000
掛金拠出額:4,000
年金資産運用益:1,000
(計算式)
期末時点の退職給付債務:80,000 - 25,000 = 55,000
退職給付引当金(期首):60,000 - 20,000 = 40,000
退職給付引当金(期末):80,000 - 25,000 = 55,000
当期の退職給付費用:55,000 - (40,000 - 4,000) = 19,000
または、(80,000 - 60,000) - 1,000 = 19,000
基準だけ読むとわかりにくいですが、簡単な数値例で置き換えて考えてみるとわかりやすいかと思います。
退職給付制度は独特な用語であったり、計算に絡む要素が多かったりして、戸惑うこともあるかと思いますが、迷った時は自分が今どこにいるのかを俯瞰してみると見通しがよくなるかと思います。
(vol.37へ続く)